「見て見てみてみて〜!!」
隣室から、なにやらすごい勢いで突進してきたものをひょいとよけたら、それは勢いあまって前のめりになり、そのまま転んだ……。
と思ったのだが、一瞬後には、どう体勢を立て直したのか、床の上にしゃがんで恨めしげに星樹を見上げていた。
「おまえ、器用だな」
「なんでよけるんだよー」
「おまえが突っ込んできたからだろう」
「む〜」
怒っているらしいので、手を貸して立ち上がらせると、とたんに機嫌を直して、目の前でくるっとまわってみせる。
「ね、どう?」
まわった勢いで、腰に巻いた布がふわりと広がった。なぜか尻尾がふらふら揺れているが、たぶん心身ともにくつろいで、隙ができまくっている証拠なのだろう。
普通の「魔族」なら無意識にできるはずの身体の制御が、サリは場合は不完全らしい。
「サリ、尻尾」
「え? あらま」
ふるふるっ、と尻尾を揺らしてみてその所在を確認すると、納得いかない顔でその黒い尾を掴んだ。自分でその触感を珍しがるように、頬にぴたぴた当ててみている。
「ん〜、ふわふわだ〜♪」
星樹が半分呆れて見ていると。
「サリって、ちっちゃいころから尻尾好きだよね」
声がして、サリが突撃してきたほうの部屋から、小柄な人影が現れた。サリによく似た黄金色の瞳で、こちらを楽しそうに見ている。
「ね、これ、スウが作ってくれた」
サリが、服を引っ張ってみせる。鮮やかな色の布地で作られたそれは、サリの身体にぴったりと合っていた。さっきまで隣室でがたがたやっていたから、スウに仕立ててもらったのだと最初から知れている。
「ああ、それはわかるけど」
だから、あっさり答えたら、睨まれた。ご不満らしい。
星樹は苦笑した。
たしかに普段、色気のかけらもない厚着だとか、ぼろのズボンにぼろのシャツ、翼はマントの下とかいった服装を見慣れている身としては、可愛いし魅力的だと思うのだが、
いかんせん、シチュエーションが問題だった。
相手の実家の、しかも母親の目の前で、『可愛いよ』とか言ってチュッてほっぺにキスできるような、そういう性格の持ち主なら、毎度毎度、くだらないことで喧嘩していないわけで。
無論、サリはそこまで期待しているわけじゃないし、星樹もそれはわかっているのだが、それでも対応に困ってしまうあたりが彼らしさなわけで。
「きれいな布地を買ってもらったからね、サリの服作ってみたんだ。ホンモノの有翼種っぽくていいでしょ?」
サリをコンパクトにしたような、けれどどこかふわふわした印象のスウに言われて、はじめて星樹は微笑してうなずいた。
「ああ、よく似合ってるな」
「ええ〜、ずるい〜、なんで俺に言わないでスウに言ってるわけ〜?」
とか何とか言いながら、部屋の中でくるくる回って、星樹の周りを半周くらい跳ね回って、あっという間にサリは外へ飛び出していってしまった。
「……何だったんだ?」
スウが、けらけら笑っている。
「素直じゃないよねー」
それが、どちらを指しているのかは、あえて考えないことにして。
「どっちへ行ったんだ?」
とりあえず星樹は、サリを捕獲しに外へ出て行った。
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