気を抜けば、このまま眠りに落ちてしまいそうだった。
重いまぶたをなんとか開いたままにして、先ほどまでこの身体を蹂躙していた男を見つめている。
「つらそうだな、和敏。そのまま寝ると、腹を下すぞ」
「わかってますよ」
男はどこか楽しそうに唇をゆがめていた。
バスローブ姿なのは、『そのまま寝ると腹を下す』であろうこちらを放置して先にシャワーを浴びたから。 今さら、そんなことが気になろうはずもなく、ただ、濡れた髪を無造作に流している姿が、美しいと思った。
30過ぎの、どこまでも男くさいこの男にこんな感想を持つようになったのは、無理やりこちら側の世界に引きずりいれられたせいか。
胸元から覗き見える胸筋に触れてみたいなどと言ったら、この男は何と返すだろう。
「なんだ?」
「あ、いえ……」
いつのまにか彼が間近にまで近寄ってきていたことに、目を覗き込まれてはじめて気づいた。
ベッドのマットレスがぐ、と下がって、男の体重を受け止める。
「まだ足りないか?」
「そんなわけないでしょう。何考えてるんですか」
たわむれに唇を寄せてくる男を睨み返すと、男はにやりと笑った。
「ここはまだ、いけそうだよな」
「っ……!」
さっきまで男の楔を埋め込まれていた場所を探られ、身体に震えが走った。こちらの快楽などお構いなしに攻め立てたかと思えば、 絶頂の連続で堕ちていくことさえ許されない快楽を叩き込まれた、激しすぎるセックスの余韻が、そこにはまだ残っていた。
「あっ、やめ……」
「なんだって?」
「い、いえ、なんでも……あぁっ」
いきなり2本の指を挿入され、こぼれ出た言葉に、冷たい目を投げつけられる。
拒絶は許されない。
あわてて取り繕うとするこちらの言葉よりも、3本に増えた男の指があの場所を抉るように突き上げてくる方が早かった。
少し前まで男をくわえ込んでいたそこは、太い指の圧迫感も難なく受け入れていた。与えられるのは、痛いほどの快感だけだ。
「あ、あっ、どう、してっ……」
もう出るものなど何もないだろうに、股間が熱く張り詰めてくる。抱かれることに慣れてしまった、この身体の貪欲さについていけずに、言う必要のない言葉を口にしていた。
たちまち手が止まって、強い目がこちらを見下ろす。
身体の疼きに身をよじると、甘い吐息が漏れた。
男は、静かに問い返した。
「どうして、何だって?」
「…………」

どうして、私を抱くんですか。

口には出さなかったけれど、男はきっと知っている。
何か決定的な言葉に飢えている、この気持ちを。
けれど、問い掛けることに何の意味があるだろうか。
その言葉が与えられることは、この先も、きっとない。
そして、無為な問いかけより有意義なものは、確かにこの腕の中にあると思えた。

「わかった、指じゃあ不満だって言うんだな」
しばしの沈黙の後。悪い悪戯でも思いついたように、男は目をきらりと光らせて言った。
「勃たせろよ。明日、役に立たなくなるくらいまで、イカせてやる」
それでは、困るのはそちらだろうにと思うと、妙に可笑しくなった。
思わずこぼれた笑みをどう受け取ったのか、男が耳に唇を寄せる。
「嬉しいか?」
「嬉しいですよ」
それは、嘘ではない。
男は目を瞠って、それからふっと笑った。
「後悔するなよ」
「さて、後悔するのはどちらでしょうね」
朝になれば、こんなやりとりさえ忌々しく思い返すに違いないとわかりつつ、そう応じてしまう。
気怠い身体を無理に起こしてまで、情事の続きを求めるのはなぜだろうか。
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