お風呂で……

 栗山家の双子はソフトテニス部に入っている。
 どうしてソフトテニス? などと言ってはいけない。二人の通う柏木中学校に、硬式テニス部は存在しないのだ。 それになんといっても、ソフトテニスといえば二人でするもの。
 いつも一緒の双子は、ソフトテニスでもコンビを組んでいるのだった。


 さて。
 部活といってもそれほど真剣にスポーツしようという雰囲気ではなくて、有り余る体力をそれなりに消費した頃、陽と晴は仲良く帰宅する。
 日の長いときでも、家に帰り着くのはだいたい六時前だ。

 その日、二人が帰ると、珍しく家に人の気配があった。ダイニングキッチンに二人がそろって顔を出すと、いたのは父親の篤史氏。
「あ、おかえり。早かったな」
「ただいまー。オヤジ、仕事は?」
「ああ、一個大きい仕事が終わったところだからな、早めに上がってきた」
 栗山篤史氏は、ただいま40歳。ワイシャツの袖をまくって、濃紺のエプロンを引っかけ、いまはボールの中のポテトサラダをかきまぜている。
 弁護士なんぞというお堅い職業についているようにはとうてい見えない、爽やかに男前な人物で、若い頃はそうとうモテていたらしい。
『今でももててるよね〜』と自分のことでもないのに自慢げに言っていたのは、双子たちの母親だ。
「で、トモは?」
「知は今日はちょっと遅くなるって」
「へえ、まじめに仕事してんの?」
「さあねえ。あ、陽、勝手につまみ食いしてんじゃない!」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
「だーめーだ。まだ時間かかるから、おまえらシャワーでも浴びて来い。汗臭いぞ」
「へーい。晴、行こう」
 風呂と言ったら二人一緒に入るものだと決め込んでいる双子は、着替えを取りに二階へと向かう。
 篤史さんは、ばたばたとキッチンを出て行く息子二人を見送りながら、
『風呂でいらんことするなよ』
 と釘を刺そうかと思ってやめた。
 言うだけ無駄だと、よ〜ぅく知っていたからだ。


 いくら仲のいい兄弟でも、中学生にもなれば一緒に風呂に入る気なんてなくなってくるのが普通。
 でもそんな常識も、陽と晴には通用しない。
 競い合うように服を脱ぎ捨てて、色気も何もない、ただの無邪気な兄弟のようにバスルームに飛び込んだ二人は、 とりあえずシャワーのお湯を出してそれを頭からかぶりながら、ふと視線を交わす。
 にぃ、と、陽が笑った。晴も笑い返す。
 裸の身体でくっつきあって、キスをして。
 舌を絡めあうキスの合間に、陽が手を伸ばしてボディソープを手に取る。
 手早く両手であわ立てて、晴の胸に手を這わせると、晴が「んっ」と声をあげた。
「ずるい、俺も」
 と言いつつ、ちゃんとスポンジを取ってあわ立てるのは、いつもボディソープ使いすぎるなと、父親に叱られるからで、 そんなことをこの期に及んで気にしているあたりが、晴の敗因だったりする。
「やっ、ちょっ、待ってってば」
 ぬめる手で、股間で存在を主張し始めているものをついと撫でられて、晴の声が裏返った。
「晴、可愛い」
「や、先、洗ってから……」
「なんで。洗ってからしたら、流すの二度手間でしょ」
「んっ、や、陽ってば」
 性懲りもなく、泡だらけのスポンジで、自分と陽とを一緒くたにして洗おうとしている晴から、陽がスポンジを取り上げた。
「じゃ、晴がしろよ」
 壁に晴の背を押し付け、腰をすりよせながらささやく。
「んっ」
 圧され気味な体勢が気に入らなくて、晴はぐいっと力を入れて陽と場所を入れ替わり、食らいつくようにキスをした。
 二人のたかぶったものを一緒にして、手の中に収めると、陽の腕が晴の背中を包み込んだ。
「いいよ、もっと」
 耳をくすぐる陽の声に、晴は自分も少し息を上げながら、手を動かす。
 その間に、陽の、スポンジを持っているのと逆の手が、つぅっ、とお尻のあたりを下っていって。
 くいくい、と押される感触に、晴は悲鳴を上げた。
「だめ、だめ、そこはだめ!!」
「なんで」
「だめったらだめ!」
「しゃあねえなあ」
 いつものおふざけだ。本気じゃない。なのに、真剣に抗う晴が可愛くて、陽は晴の鼻の頭にキスをする。
「ほら、ちゃんと手動かせよ」
「わかってるよぅ」
 足を絡めあって、身体をこすりあわせているだけで、うっとりするほど気持ちいい。
 実は、小学校3年生くらいでもう、こんな愛し合い方を覚えてしまった二人は、5年経ってもそれに飽きない、ある意味純粋な少年たちだ。
 お互いがお互いしか目に入っていないことを知っているから、焦らない。
「あ、も、イキそう……」
「ん、俺も」
 追い上げる晴の手がもどかしくて、陽は自分の手を上に重ねた。
「一緒にいこ」
「んっ」
 キスを交わして、欲望を吐き出す。
 それから、開放感と脱力感に、ふうとため息をついて、視線を交わして微笑みあう。
 なんともいえず、幸せな瞬間。
 離れがたい相手の身体をすっと押しやって、その時間を断ち切ったのは陽のほうだった。
「さてと!」
 気合を入れるように、声を出して、握り締めていたスポンジにもう一度お湯を含ませる。
「ちゃっちゃと洗っちまいますか」
 その言い方に晴がくすくす笑っていると、脱衣所の方でがたがたと音がした。
『いつまでじゃれてる気だマセガキども!!』
「もうすぐ出るよ!!」
 怒鳴り返して、二人はくすくすと笑いあった。


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