12月の昼下がり


「よーぉー? あれ、はっちー、陽は?」
 期末テストの最終日。
 陽のクラスまで迎えに行ったら、肝心の陽がいなかった。 どうやら、だいぶ前にホームルームが終わったらしい教室は、ずいぶんがらんとしている。
 ご近所で、幼馴染でもある初樹がいたから、訊ねてみると、
「あ、晴。おまえ、聞いてない? 陽ちん、今日クラスの奴らとどっか行くって言ってたぞ?」
「えー!?」
 すごいショック。そんなこと、あらかじめ聞いてたら忘れるわけない。
 約束とか、してたわけじゃないけど、期末テストの最終日なんて、遊びに行くためにあるような日だと思うんだけど、置いていくなんて!
 俺がよほどひどい顔をしてたのか、初樹が関係ないのに申し訳なさそうな顔をして、今からゲーセン行くけどどうって誘ってくれたけど、とてもそんな気になれなくて、俺はとぼとぼと家に帰った。







「せい、せい……」
 声が聞こえて、ぱちっと目をあけたら、目の前にさかさまの陽の顔があった。
「悪い、ちょっとはずせない用事でさ。怒った?」
「ショックだった」
「ごめん。で、不貞寝?」
「暇だし」
 リビングの隣の、普段あまり活用されていない和室は、冬場だけ人の出入りが多い。 それは、こたつがでーんと置いてあるからで、特に俺はこのこたつにすっぽり入って本や漫画を読むのが好きだ。
 けど、今日はそんな気分にもなれなくて、こたつにすっぽりもぐって昼寝を決め込んでいたから、陽が帰ってきたのに気づかなかった。
 陽はくしゃって顔中で笑って、俺のおでこにちゅってした。
「伝言してから行こうと思ったら、晴のクラス遅いんだもんよー。置いていかれそうになってさ」
「うちの先生、話長いんだよ」
「だよなー。無駄話多いよな」
 俺たちは携帯を持ってない。うちの両親の、ありがたい教育方針により、高校に入るまでは我慢ってことになってる。 確かに、なくても生活に困るなんてことはないんだけど、メールができたら便利なのにな、って思うことはよくある。
「で、何してきたの?」
 俺が尋ねると、陽は笑って、
「んー、ヒミツ」
 と、とても楽しげな口調で言った。
「あやしー」
 なんだか釈然としないんだけど、ま、いいかと思い直して、俺はコタツからずりずりと這い出た。
「それよかさ、晴。クリスマスツリー出そうぜ」
「……ああ、そういえばそういう季節だったね」
 言われて、なんか、ああっ、って感じで。陽のたくらみが見えてしまった。なんてわかりやすい奴。きっとそうに違いない。
 俺がふふって笑うと、陽も嬉しそうに笑って、なんで俺が笑ってるのかわかってないくせにって思うと余計におかしくて、げらげら笑ってしまった。
「なんだよ、俺、なんかおかしいこと言ったか?」
「ん? 別にー。ツリー出すんだったらさ、陽。納戸から出してきてよ。俺、米研いでなかった」
 ツリーにかまけてご飯の支度を忘れたら、理不尽な母親に呪われる。
 陽を追い払って、キッチンへ向かった俺は、なんだか楽しくなって、くすくす笑いながら冷たい水で米を研いだ。
 もうすぐクリスマス。
 陽にプレゼント、買わなきゃ。


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