バレンタインデー・キス

「そこのお二人さん〜」
 朝……といっても11時近いけれど、とりあえず起きて間もない時間。
 リビングのソファで晴とだらだらしていたら、ご機嫌なうちの母親が現れた。
「なに?」
「バレンタインのプレゼントv」
 とかいって、手に持ってるのはポストカードらしきもの一枚だけなんだけど。
 まさかチョコをせびりにきたわけじゃないよなーと、俺と晴が首をひねる間に――だって、バレンタインといえば、うちでは親父からお袋がチョコ(もらってきた義理チョコだけど)をせしめる日なんだから――彼女がカードを目の前にさしだしてきた。
「ほら。見てよ、力作」
「うわ〜」  先に、晴が感嘆の声をあげた。

 店で売ってるポストカードとかに、よくある構図。
 小さい男の子と女の子が、チュッ、てしてる。
 たいてい、モノクロ。そして、白人。
 あれだ。
 ただし、そのカードの写真は、どう見ても俺と晴の小さいときなんだけど。
「この写真、はじめて見た」
「でしょ〜。どっかにあったはずだと思ってね、こないだから捜索してたんだ。結構見つかったよ、未公開のラブラブ写真」
「ラブラブ写真って……」
 これをカラーで見せられたら結構恥ずかしい気がするんだけど、モノクロに加工された写真は、まるで俺たちが俺たちじゃないみたいで、自然に見れた。
 きゅって目をつぶってる晴がかわいい。
「陽、すごい幸せそうな顔してない?」
「そうか?」
 確かに、俺のほうはなんかやたら嬉しそうかも。
「可愛かったよね、あの頃は。陽が幼稚園の同じ組の女の子にチョコもらったって、晴が泣いちゃってさぁ」
「嘘っ、そんなことあったっけ?」
「あったよー。これは、仲直りの証拠写真」
 晴は目を丸くしたけど、俺は思い出してしまった。そういえば、そうだった。


 幼稚園でも、バレンタインデーというのは結構なイベントで、好きな男の子にチョコを配る女の子も多かった。この場合の好きっていうのは、別に本命ひとりってわけじゃないだろう。本命が何人もいたり、全部義理チョコだったりだと思うんだけど。
 俺も、義理だか本命のひとりだかで、さほど仲良くもない女の子にチョコをもらってしまったんだった。
 だって、
「陽くん、これあげる!」
 って言って差し出されたら、普通受け取るだろ?
 でもそしたら、あとで俺がチョコをもらったって知った晴が泣いて。
 俺は最初、自分がもらえなかったからだと思ったんだけど。
 晴が言うには、
「だって、だって、よーちゃんはせいのなの、せいの彼氏なんだもん」
 ということで。
 俺はこのとき、付き合ってる相手がいるときは、チョコをうかつに貰ってはいけないと学んだのだった。もちろん以後、俺は義理チョコだろうと本命チョコだろうと、丁重にお断りすることにしている。
 かといって……


「でも晴って、俺にチョコくれたことないよな」
「当たり前じゃん! 俺、男だよ?」
「そりゃそうなんだけどな」
 俺だって晴に、バレンタインに何かあげたことなんてないから、お互いさまなんだけど。
「それに、誕生日だって、クリスマスだって、プレゼント交換してるし」
 それはどこのカップルも同じじゃないんだろうか。まあ、普通のカップルは誕生日が同じ日ってことはないか。
「まあ、それに、愛なら毎日確かめあってるしな!」
「なんだよそれー。確かめあってる?」
 笑って言い返されたので――結構ひどくないか?――俺は晴の首に手をまわして引き寄せた。
「毎日言ってるでしょ。愛してるよ、晴」

 キスしてる最中で、危険なカメラマン(ウーマンか?)がちゃんと撤収したかどうか、確かめてないことに気づいたけど……まあ、いいよな。
 でも、デジカメ持って廊下の方から狙ってそうな気がするのは、あながち間違いじゃないと思う……。


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