give me...


16

 撮影を止めるように指示して、「坊主頭」がビデオからテープを取り出すと、堀田は二人を部屋から出した。
 その間も、遥の体内を犯すものは動き続けていて、遥は荒い息をつきながらぼんやりと二人が出て行くさまを見ていた。
「んっ、あ」
 小さな喘ぎ声がこぼれおちる。
 十分な大きさの異物は、嫌でも遥の感じる場所をえぐり、身体を震えさせた。今、睨んだところで、男を煽るような目つきにしかならないことがわかっていたから、遥は近づいてくる男には目をやらなかった。
「ガキは趣味じゃないんだが、伊織の気持ちもわかるな。おまえの虚勢を、ずたずたにするのはおもしろそうだ」
 顎をとられて、仕方なく見上げる。
「俺は、てめーの、おもちゃじゃねーっ」
 まとまった文章を口にするのは、労力と気力がいる。頭がしびれて、どうでもよくなってきているのが、自分でもわかった。
 何をどう言おうと、この男は遥のことを「高岡伊織の愛人」で、「利用価値のある道具」としてしか見ていないのだと、遥は思った。だったら、悪あがきするだけ無駄だ。
 遥は、小さく身をよじった。
「なっ、っれ、これ、抜けよ……気持ちわりぃ……」
「こんなに感じてるのに?」
「やっ」
 手を伸ばして、半分勃ちあがったものの先のほうをするりと撫でられ、遥は思わぬ刺激に声を上げた。
 その甘い声に自分で腹が立って、唇を噛み、一瞬うつむき加減に視線を漂わせる。
 少し迷ったけれど、結局遥は、このときにはすでに、全然冷静ではなかった。
 だから、迷いをふっきって顔を上げたとき、こんなことを言ったのだ。
「なあ。ちょっと、味見して、みたいとか……思っただろ……あんた。いーじゃん……やれよ。あっ、こんなっ、意味ねえもん……突っ込んでないで、さあ…………」
 堀田は、見上げた遥が思わず身を震わせたほどの、冷たい微笑を浮かべた。
 ぐい、と乱暴に顎を引かれて、無理な姿勢にうめき声をあげた遥の耳元に、低く囁く。
「惜しいことをしたな。ビデオを早く撤収させすぎた。伊織にいいものを見せてやれたのにな」
 かっとなって、何事か言い返そうとした瞬間、勢いよくバイブレーターが引き抜かれ、遥は悲鳴を上げた。
「そんなにしてほしいなら、遠慮することはないな。今さら、逃げられると思うなよ」
 男の低い声は、思考をしびれさせる。
 だいぶ混乱した頭で、遥は何がいけなかったのだろうとぼんやり思った。
 帰宅途中、この男の乗った車が現れるまで、澱んだ日常の中に埋もれていたはずだった。高岡以外の男に、こんな目に遭わされる日が来るなんて、ほんの数時間前まで思ってもみなかった。
 堀田は遥の側を離れると、室内の棚の中を少しあさって、革製の細いベルトを取り出して持ってきた。
「口開けろ」
 それをつきつけて短く命令され、仕方なく口を開く。
 堀田が、ベルトを少し丸めて口内の端のほうに押し込みながら、自分の前をくつろげているのを見て、遥は言われる前に意味を理解した。
「勃たせろよ」
 へえ、噛まれるのが怖いんだ、とはベルトを噛まされたあとでは言えず、無理やり後頭部を引かれ突きつけられたものに、おそるおそる唇をつける。
 ぐい、と乱暴に口内を犯され、遥はぎゅっと目を閉じた。
 革の味の気持ち悪さと、押し込められた物体への嫌悪は、すぐに息苦しさに凌駕された。男は何の容赦もなく、遥の前髪をつかんで腰をゆすり、喉を突かれ、むせそうになって苦しむ遥を、下手くそだとか淫乱だとかそういった類の言葉を使って辱めた。もっとも、遥はほとんど聞いてなどいなかったが。
 ずるりと熱い肉塊が引きずり出され、それからベルトをかき出されて、堪えきれずに咳き込む。
 その間に、手早く遥の手足の拘束をはずした男は、遥の身体を裏返しにしてソファの背のほうに向けさせてから、きつく腰を掴み、容赦のない力強さで、その凶器を遥の中へ押し込んだのだった。


「げほっ、ごほっ」
 咳が、身体の節々と、某所にあらぬ痛みを生じさせ、遥はふと我に返った。
 ぞくり、と背筋が震え、無意識に自分の肩を抱く。いつのまにか、眠っていたのだろうか。ソファの上で横になっていた。
「あ、れ……?」
 すでに日が落ちているようだが、室内は、外の電光が入ってくるからか、真っ暗ということはない。
 そう、そこは地下室ではなく、元の部屋だった。いつのまにか、最初に連れ込まれていた6階だか7階の応接室もどきに戻されていたのだ。不思議に思って、遥は記憶をたどる。
「シたよなあ。確かにアレと。……んーで、どうしたんだ?」
 ビデオを撮られたことの屈辱は、あとの出来事のインパクトに押しやられてしまって、遥は半分頭の中で抹殺していた。あれを、高岡が見ることを想像したくなかったのもあるだろう。
 堀田の、遥の身体を気遣うことのない、乱暴で残酷な攻めは、それでいて遥に痛みに逃げることを許さなかった。途中、何度か悲鳴をあげ、許しを請いそうになり、あるいは違う名前を呼びそうになったことをおぼえている。意地を張らずに『許して』と言えば、あるいは男が興ざめしてくれたのかもしれないが、そのときの遥に打算など働くはずもなく、彼は彼の性質のままに、合意の上の暴力とでも言えそうな行為を受け入れ続けたのだ。
「俺って、馬鹿?」
 誰かに尋ねたら、きっと百人中百人がそうだねと同意してくれそうな気がする。今の自分でさえも、大きく頷いて『馬鹿』と言ってやりたい。
「まったく、さあ……」
 ゆっくり身体を起こしていく。服は、誰の手によるものか、きちんと着せなおされていた。まさか堀田が自分でやるとも思えないし、だとしたら「おまけ」だろうか。それも嫌だと思った。
 目の前のテーブルの上には、コンビニで買ったらしいおにぎりやパンと、お茶のペットボトルが置いてあった。室内を見回すが、人気はない。ドアを見やって、しばし考えたが、まさか鍵が開いているとは思えなかった。堀田は、彼と高岡とが共謀して行っている何かのかたがつくまで、ここに監禁されていろと言いたいのだろう。
「馬鹿馬鹿しい」
 冷えた心をごまかすように、遥はことさらに口に出して、深く息をついた。
 ふと思い出し、ソファの上に目を滑らせると、置き去りにしていった携帯はまだそこにあった。手に取って開けてみれば、他愛もない友人からのメールが2つほど届いていて、表情を緩める。さすがに返信できる気分ではないけれど、非日常の中に紛れ込んだ日常に、少し安心した。自分はまだ、そんなに遠くへは来ていないと。
 遥はゆっくりと立ち上がり、窓辺に歩み寄った。街の明かりを見ながら、何気ない手つきで窓を開けてみる。外のむっとする空気に、少しだけ顔をしかめ、少し身体を乗り出すと、そのまま静止する。
「セ●ムはなしですかあ?」
 警備の装置のようなものがあるなら、自由に窓を開け閉めできないかと思ったが、反応がないなら大丈夫だろうか。元のソファへ、窓を開け放ったまま戻ったが、誰かが部屋に入ってくる気配はない。
 遥はひとつ大きく息を吐き出すと、手に持ったままの携帯に目を落とした。リダイヤルを呼び出して、目的の名前を見つけると、ボタンを押す。
 しばらくの呼び出し音の後、向こうが出たのを察知して、遥は静かな声を出した。
「あー、俺。ちょっと頼みがあんだけど」
『おう、遥か。どうした?』
 男の太い声に、笑みがこぼれる。
「いやーさあ。宇山サンにしかお願いできないようなことなんだけどー。ところで宇山、堀田真澄が普段使ってる事務所の場所って知ってるか?」
『うん? おまえ、何かヤバいことたくらんでんじゃないだろうな』
「ご冗談。もう巻き込まれてんのよ」
 電話の向こうで、男が息を飲む様子を感じつつ、遥はくすくすと笑った。
「だからさあ、宇山。脱出するから、手伝ってくんない?」

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