living on the edge



10.


「なあ、あんた、マジでするの?」
「往生際が悪いな。メシ代だとでも思って諦めろ」
「め、メシ代って……」
 夜、高岡に連れ込まれたバスルームで、お互い裸の状態でまだそんなことを言っていた。
 思い返せば思い返すほど、そのときの俺には危機感が欠如していた気がする。やっぱり餌付けが原因なんだろうか。だとしたら、それはそれで嫌だ。
 ちなみに、その日高岡は昼間こそ出かけて不在だった(らしい)ものの、日暮れ前には帰ってきて、夕食を用意してくれた。朝は高岡が先に食事を済ませていたが、今度は2人で向き合って食べることになって、その食卓の妙にほのぼのしたムードに、なんだか俺の「監禁されてる」って実感はどんどん薄れていたらしい。
「なに考えてる?」
 俺が、あのパスタは美味かった、などと現実逃避しかけていると、高岡が含み笑いで怪しいところにスポンジを持った手を滑らせた。
「あ、何す……ちょっ」
「ん?」
 俺は、またしても手錠で両手の自由を奪われて、泡たっぷりのスポンジで身体のすみずみまで洗われてしまっていた。あーんな場所まで。
「この、ヘンタイっ……」
「はいはい、それで? あ、腕上げて」
 言われて素直にバンザイする俺がおかしい。絶対おかしい。腋の辺りを洗いたかったらしい高岡が、胸からわき腹に向かってするりとスポンジをすべらせて、くすぐったくて勝手に声が出た。
 高岡が、いやらしい笑みを浮かべて俺を見ていた。
「あ、いや、あの……」
「可愛いなあ、遥」
「か、かわ……うわっ」
 引き寄せられて、高岡の胸と俺の胸が密着した。
 触れた肌の熱さと、泡のぬめりに背筋がぞくっとする。
「ソープだ」
「あ、ふっ、阿呆か!」
 高岡がふざけて身体を滑らせながら、さらに俺を引き寄せる。彼の膝に乗り上げるような格好になりながら、
「ソープ」の意味に気づいた俺は、とりあえず上にあげたままだった両手で高岡の頭を叩いてやった。
「んー、そういうことするか」
 顔をしかめながら見上げられて、しまった、ちゃんとがつんと殴ればよかった、って気づいたときにはもう遅い。次の瞬間には、尻にまわされた高岡の指が、あそこを弄りはじめていて、抵抗する余裕なんて一瞬でなくなってしまった。

 しっかり中まで洗われて、気持ちいいやら気持ち悪いやら、苦しいやら恥ずかしいやらで、またもやへろへろになったんだけど、今度は高岡はイカせてくれなくて、俺はブツを半勃ちにしたままバスルームから連れ出された。
 それからざっとバスタオルで水気を拭われて、同じバスタオルで高岡が自分の身体もふいて、高岡はそのあとバスローブをはおってたけど、俺は何も着せてもらえないまま、連行された。
「そっちじゃない、こっち」
 監禁部屋のほうへ行こうとしたら、腕を引かれて、連れ込まれたのは広々としたベッドルームだった。高岡が明かりをぱちんとつけると、部屋の奥、きちんとベッドメイクされた、やたら巨大なベッドが目に入る。
「うわ……」
 俺はなんか妙な衝撃を受けて、声を漏らした。
 あんなでかいベッド、ラブホテルくらいでしか見たことない。寝具をベージュで統一した地味なベッドだったから、見た目にはそんなどぎつかったわけじゃない。ああ、まあ、普通に地味なラブホくらいのもんだ。むしろ、そこで今から何が行われるか、ってことをそのでかい存在感でアピールしているのが問題なわけで。
「シングルのベッドじゃ、落ちそうだろ」
 高岡は俺の肩を押しながら、そう解説を加えた。いや、あのベッドのサイズはセミダブルだったんじゃないかと思うけど、どっちにしたって高岡にとっては狭いってことなのか。
 俺はベッドに座らされ、そのまま肩を押されて押し倒された。素っ裸でベッドに座っといて、抵抗も何もあったもんじゃないからそのまま転がったけど、上から高岡の強い視線を浴びて、早速後悔した。今からしますってシチュエーションが、やたら恥ずかしかった。なんでだ。
 伸びてきた手が俺の胸を触って、尖りを親指で弄っていく。
 男の乳首なんか触ってなんかおもしろいのかと、高岡を見上げると、奴は薄く笑ってそのまま俺に覆いかぶさってきた。
 息が裸の胸にかかったと思うと、濡れた感触が乳首をかすっていった。
「んぁっ」
 快感というより、ただその感触で自動的に声が出て、無意識に逃げようと身をよじった俺を押さえつけて、男がさらに胸を攻めてくる。
 片方の手が空いたもう一方の胸に。もう片方の手はバスルームから移動する間にすっかり興奮も収まっていた俺のナニに。
「やめっ、あぁ……」
 我慢しようにも、高岡の手つきは巧みで、気をそらそうにも、胸をいじる動きが気になってどうにもならない。
 俺が息を乱して転がっていると、高岡の手が離れて、俺の脚を広げさせた。それから、ベッドの枕の下かどこかからボトルを取り出して、中身を手に垂らしている。ローションっぽかった。
「こら」
 両手が離れたし、さっきまで上に乗っていた高岡は脚の間だし、とりあえず逃げようと思ったんだけど、足を上げて高岡を蹴倒そうとしていたら捕まった。
 上げた足をとられて、さらに大きく股を割り広げられる。
「や……嫌だ、やっぱやだって」
 思わず本音がこぼれ出て、俺は腕で顔を覆った。遠慮も何もなく、濡れた指があそこのまわりを撫で回して、そしてするりと中へ入ってくる。バスルームで弄られた後だったから、あっけないほど簡単に。
「中、熱い」
「え……やぁっ」
 思いがけないほど近くでそんなことをささやかれて、びっくりして見上げていたら、指が増やされた。卑怯だ。
 前に屈みこんだ高岡の手が、やさしく、でも有無を言わさぬ強さで俺の腕を顔の前からどけて、顔を撫でてくる。目が合って、あわてて目をそらしたら、頬にキスされた。
「遥」
 そんなやさしげな声で呼ぶくせに、俺の中をかき回しながらさらに指を増やしてくるこいつは鬼だ。いや悪魔だ。
 髪を梳くように、頭をゆっくりと撫でる手が気持ちよくて、俺は胸を喘がせながらその手に縋った。


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