living on the edge



14.


 晩ご飯を食べ終わって、キッチンを片付けてしまってから、高岡は、嫌々という態度ではあったけども、俺の置かれた状況とやらを説明してくれた。
「浦安組の動向がまだ落ち着いていないのと、あとあのガキも、だな。椎名だったか?」
「ああ、それがなに?」
「だから、おまえをハメた奴だろ。元々奴が関わっていたのはどうも中国系の売人らしいが、今度は英燐会系のところに近づいているらしい。器用な奴だ。まあ、これ以上おまえに害意がないんならどうでもいいが、用心するに越したことはない」
 確かに椎名は妙なところで器用な奴だ。やくざを手玉に取り、何をどう吹き込んだのか知らないがまんまと浦安組を騙して、俺を陥れ、さらに別の組とコネクションを持とうとしているというなら、かなりの才覚と言っていいだろう。まったく、むかつくことこの上ないけどな。
「それから浦安組のほうは、血眼になって例の廃工場に乗り込んだ人間を探している」
「乗り込んだの、おまえじゃんか」
 何がどうなったのか、高岡が現れたあと気絶してしまった俺にはさっぱりだが、穏便に交渉して俺をあそこから助け出したわけではないだろう。
「俺は面が割れてないからな。利害関係もない分、たどりつくまで時間がかかるだろう。今、おまえが出てけば、また拉致られて『あいつらは何者だ』とやられるに決まってる」
「俺、あんたが何者かなんて知らないぞ」
「失敬な。ちゃんと自己紹介しただろうに」
「あ、そか」
 そういえば、英燐会の総領の息子だとか言っていたのだった。第一、名前だけでもわかれば、相手を特定するには十分だ。
 今の状況が拉致監禁に違いないことさえ置いとけば、高岡の言うことには一理あるように思えた。無論、高岡の出した情報が嘘偽りでないとしてのことだが、俺はあまりそっちを疑ってはいなかった。俺にそんな回りくどい嘘をつくメリットがあるようには思えなかったし、高岡がそういう嘘をつくタイプとも思えなかった。
 そんなわけで話に納得はしたものの、俺にとってのいちばんの問題は、やはり自由を奪った上にセックスを迫る男なわけで。
「んー、つまりあれか、いろいろあるから外をほっつき歩かないに越したことはない、って一応ちゃんとした理由があるのにかこつけて、俺をじっくり料理してあわよくば骨まで食っちまおうってハラでここに閉じ込めてるってことか」
 自分で言っといて、かなり微妙な気分になってきたところに、高岡からとどめが入った。
「美味しくなるように、いい餌食わせてやってるだろう?」
 おまえはお菓子の家の魔女か。
 呆れて睨むと、高岡は苦笑した。
「なんだ、その顔は。おまえが変な例え出すからだぞ」
「俺のせいなのか?」
「おまえのせいだ」
 くそ。むかつくけど、その前に論点がずれてる。
「俺がここでおとなしくしてるって約束すれば、あんたは俺を鎖でつないでおく必要はないんだよな」
「信用できないな。おまえにどこか行くあてがあるのかどうかは知らないが、おまえは確実にセックスと外へ出る危険とを天秤にかけるだろう」
「そりゃそうだよ、なんで俺があんたに抱かれなきゃ……つうか、あんたがセックスしなきゃいいんじゃん! だいたい、普通セックスって堕としてからするもんじゃないのか?」
「身体で堕とすって手もある。言っただろう? 俺がいないと耐えられない身体にしてやるって」
 昨夜もきかされた台詞で、俺はまた背筋にいやぁな怖気が走るのを味わわされた。なんというか、そんなクサイ言葉でさらりと言うくせに、目が完全にマジなんだ。
「……あんた、最悪」
「そりゃどうも」
 素直な感想を述べたら、にやりと笑われた。
 俺は、厄介なのに捕まったと、つくづく思わずにはいられなかった。


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