living on the edge



18.


 そのあとまたバスルームのほうに連れ込まれて、今度はシャワーで容赦なく洗われた。まあそれは昨日も一昨日もされたんだけども、何やら言葉で俺をなぶりつつ……全然聞いちゃいなかったけどな。
 それで、やっぱり腰砕けのへろへろになって、もう精神的にも肉体的にも限界っていうの? 半分意識が飛んでるような状態で、担がれるようにして、例のベッドルームへ。
 高岡は荷物みたいに、まだ手錠で両手を拘束されたままの俺を、ベッドに下ろした。それから、ベッドサイドに置いてあった何かを手にとって、俺の顔にあてた。
「は?」
「ああ、やっぱりこのままじゃズレるな」
 結論からいうと、それはアイマスクだったようだ。飛行機とか乗ってるときの安眠用の。
 アイマスクの上から、さらに何か紐のようなものを頭に巻かれる。視界はほとんどふさがれて、微妙に端から明かりが見えるだけ。手が使えなくても、アイマスクを取るのはそれほど難しくないだろうけど。
「あんたね、ほんと変態」
「そりゃどうも」
「褒めてねえ」
 男の吐息が胸にかかって、びくんと身体が震えた。舌が這う感触が妙に生々しくて、鳥肌が立った。
 指が、からかうように、半勃ち状態の俺に触れてくる。
「ひゃ、あっ……」
 頭をシーツにこすりつけて、アイマスクを取ろうともがいていたら、髪をつかまれて引き起こされた。そのまま、乱暴な口付けが降ってくる。
 思いっきり引っ張りやがって、禿げたらどうしてくれるのか。生理的な涙がでてきて、俺はアイマスクの下でまばたきした。息が乱れて、うまく息継ぎできなくて、よけい涙がでてくる。
「もっ……はな…せ……んっ」
 こっちが苦しんでるっていうのに、男はふっ、と吐息で笑う。楽しんでやがる、変態め。
 高岡は膝の上に俺を抱えあげ、そのまま挿入した。
 あとはもう、激しすぎる快楽に押し流されるだけだった。


 途中でなんかもう色々分からなくなって、気がついたら手錠もアイマスクも取られて、俺はベッドに寝そべった高岡の上に座礁したアザラシ状態で、高岡が俺の背中を撫でていた。
「落ち着いたか?」
「おまえなんか嫌いだ」
 人の身体に半分のっかかって言う台詞じゃないけど、そう思ったからそう言ったのに、またふっと笑われた。ムカついたんで、目の前にあった肌色に噛みついた。
「痛っ、おまえ、思いっきり噛むなよ!」
「こんくらいでうだうだ言うな軟弱者め!」
 調子に乗って噛みついてたら、引っぺがされて口をふさがれた。
「泣くな、遥」
 自分が泣いてることに、言われてはじめて気づいた。いや、泣いてるって気づきたくなかっただけか。
 あんなクソ意地の悪いセックスを仕掛けてきたくせに、高岡は俺に恋人にするようなキスをして、優しげな声でなだめる。始末におえない。
「泣いてねえよ、馬鹿」
「そうか、これは汗か?」
 俺の目元をやらしく舐めて、にやりと笑う。ムカツク。
「家に帰りたいか?」
「帰りたいわけじゃねーよ、わかってるから余裕ぶっこいてんだろ、おまえ性格悪いんだよ!」
 そうだ、家に帰りたいかって、別に帰りたいわけじゃない。ここから出て行きたくても、行くところなんてどこにもない。監禁されて以来、ずっと認めてこなかったことが、勢いで口から飛び出ていた。
「怒るなよ」
「怒るだろ普通、俺が何したっていうんだよ、馬鹿!」
 怒鳴ってたらさらに泣けてきて、俺は子どもみたいにしゃくりあげて、声を詰まらせた。泣き顔を見られたくなくて、目の前の高岡の胸に顔をうずめようとするのに、高岡がそれを邪魔する。
「悪いな。たしかに俺は性格悪いし馬鹿だし変態だ。正直に言うと、おまえを泣かせたくって仕方なかった」
 涙が止まった。というか固まった。
 俺のねっちりした恨みのこもった視線に、高岡が苦笑する。
「おまえを俺のものにしたい。おまえの居場所になりたい。そう思ってるのは本当だ。鬱屈して夜の街中を徘徊するような生活は、おまえにふさわしくない」
「ふさわしくないって……あんたは俺の何を知ってるっていうんだよ」
「知りはしないさ。だから知りたい。何を食いたいか、何がしたいか、どこへ行きたいか。ああ、この際だから言っておくと、別に俺は偶然お前を助けたわけじゃないからな」
「はぁ!? って、あれか、あれはお前の策略だったのか!」
「いやいやいや、そうじゃなくてだな」
 思わず目の前の首を絞めてゆさぶろうとしたら、さすがにあせった高岡が俺の腕をひっ捕まえて、首を絞められないようにぴったり抱き寄せた。腰に手を回したら、そりゃ首には回らんよな。
 暴れないように俺をとっ捕まえると、高岡はヘッドボードに背中を預けて、俺の背中を撫でだした。お互い裸なんだけど、性的なものは一切なくて、そういうふうに撫でられたり、抱きしめられたりするのが全然嫌じゃないってことに、俺は気づいていた。当然、高岡にも気づかれていたんだろう。
「何度か街でおまえを見かけたんだよ。まあ、一目惚れまではいかないけど、それに近い。3回目に見かけた後で気になって仕方なくなったんで、おまえのことを調べてた。当然、行動範囲をチェックして、知り合って口説こうって魂胆でな。そしたらおまえ、ヤクザなんかに捕まりやがって。あとは勢いだ。悪いことをしたとは……ちょっとは思ってるよ」
「ちょっとかよ!」
 ツッコミどころ豊富すぎる告白だったけど、それまで納得できていなかったいくつかのことは、それで多少腑に落ちた。
 財布も携帯も持っていなかった俺の名前をどうして知っていたのかとか。
 どうして初対面の俺をいきなり監禁して手懐けようとしたのかとか。
 まあ残念ながら、高岡が鬼畜で変態だっつう認識は変えようがない説明だったけどな。ああ、そこは事実だから問題ないのか。
「俺のものになれよ、遥」
 もうすでに十分、自分の勝手に扱っているくせに、まだ差し出せと彼は言う。
「全部さらけだしてしまえ。無理して辛くないフリなんかする必要はないんだ。泣きたいときは泣けばいいし、怒りたければ怒ればいい。寂しければ、そばにいるから………俺のものになっておけよ。損はさせない」
「……自分で泣かせといて、よく言うよ」
 相変わらずクサい台詞で、高岡が言う。
 なんつう傲慢な理論展開なんだ、と頭では突っ込みを入れてるのに、どっかが違う反応をしてる。
 それが一体何なのか、そのときの俺にはわからなかったけれど。


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